2006年 09月 23日
蒲原/旧五十嵐邸 |
東海道蒲原宿の街道沿いに佇む旧五十嵐歯科医院(旧五十嵐邸)は、大正期以前
(江戸もしくは明治)に町家建築として建てられ、当主の故五十嵐準氏が東京医科
歯科専門学校を卒業した大正3年歯科医院を開業するにあたり町家を洋風に
改築しました。その後西側、東側が増築され一体的な洋館として現在の形になったものです。
平成12年、在来の町家の特徴を残しながら外観が洋風というユニークな点が評価され、
国の登録有形文化財に指定されました。
こちらで今日まで、由比町今宿の原由喜江さん所有の明治から昭和時代の着物を照会する
「彩り溢れる原家のきもの展」が開かれているとのことで出かけました。
華やかな打ち掛けなどの婚礼衣装をはじめ、晴れ着、訪問着、帯など約60点が並んでいました。明治時代に使用された七五三の衣装を半天にしたり、紅梅織の着物を暖簾に仕立て直した品々なども飾られていました。
旧家に飾られたこれらの着物もまさに、わが意を得たりと引き立っていました・・・が私のほうは
むしろこの家の造り、品格に圧倒されていました。
座敷に置かれた大金庫。当時治療に使われた金などを保管したという。
上段は神棚になっています。この家では1階で家族が暮らし、2階が診療室及び待合室でした。
特別待合室である二階座敷の襖絵。上二枚の写真が裏表。
富士と松原の欄間が見事。蒲原で余生を送った田中光顕伯爵もここへ歯の治療に訪れました。
この部屋は専用の待合室だったそうです。
金の地に描かれた牡丹。
今でもその彩りは輝いています。
生活の中の工芸美術です。
思うに・・・今の建築は科学技術でしかないなー・・・つまんないですねー。
床の間、框は黒柿、床柱は鉄刀木(タガヤサン)、
壁は葛をコンニャクで塗り固めたものだそうです。
現在でもその艶、風合いはビシッと決まり、当時のままのようです。
2階に造られた4帖の子供部屋。
窓枠の意匠、そして型ガラスが美しい。
レース模様の摺りガラス。便所の窓に使われています。
毎朝が楽しくなりますね。
レース模様のガラスと縦格子の組み合わせで引き戸もあります。
かわいいですねー。こんな優しい表情の建具、いまあります?
現代のものづくりに欠けている部分です。
2階待合室に使われている照明器具。いかがでしょう、どれも優しい雰囲気ですねー。
現代の工業製品では出せない味ですねー、としみじみ工業デザイナーはつぶやきます。
しかし、私の「竹プロジェクト」の目指すところでもあります。
1階裏庭から見る蔵と裏山。手前小屋根には下のポンプが置かれている。
裏庭に設置されたポンプ。水道のない時代、治療に必要な水はこのポンプでくみ上げ、庭の曲水に流れた。
2階診療室に置かれている当時の診療台。明るい診療室、床はリノリューム。
蒲原の五十嵐歯科医院は開業後、静岡近辺はもちろん熱海からも治療に訪れ、遠方の人用の宿舎も完備していたそうです。その後開院した五十嵐歯科医院・熱海分院も閉じたのは最近ということです。
用宗の昭和8年築の建築も戦前のお医者さんのものでしたが、建具やその普請に相通ずる贅を感じました。決していやみなものじゃなくて、むしろ優しさのような柔らかい触感のような、
歯科医としての腕もよかったんだろうなー・・・
by canproyoshikawa
| 2006-09-23 22:09
| 日々是好日